「嘘」
【多摩美術大学 一般入試/芸術学、武蔵野美術大学 映像科/基礎デザイン科 型課題】
失った嘘
2進法。0と1との連続で決まる、コンピューターの言語感覚。
ユーザーはコンピューターの画面を視覚的に捉える。私は自分の目で捉えるままに右手のマウスを頼りに、コンピューターを利用してあらゆる作業をやった。キーボードを叩き、マウスを動かし、クリックし、時にはその指示に従い、うまくやっていたはずだった。
少なくとも、今朝までは。
今朝。いつものようにコンピューターの電源を入れた。しかし、いつものような画面は現れない。いやな予感。冷や汗をかき始めた私の目の前の画面に表示されたのは、判読不能の、めちゃくちゃな文字列の連続だったのである。
2進法。0と1との連続で決まる、コンピューターの言語感覚。私はその時、コンピューターが私に視覚的に嘘を吐き続けていたことを悟り、その嘘が、私をいかに助けてくれていたかを痛感した。
(講評)
昨今では学生のほとんどが利用するコンピューターを題材に、コンピューター本来の2進法と現在主流となっているグラフィカルな画面による操作との乖離をコンピューターを「嘘」ととらえています。読者は、その「嘘」に多くの人間が支えられている事実に気付かされます。
文字列の繋がり
「メルアド、教えてくれる?」
コミュニケーションとは、そうやって取るものだと、ずっと思ってきた。いつでも相手に繋がっていられるように、とりあえず携帯電話のメールアドレスを聞いておく。そうすれば、私と相手はいつでも繋がっていられる。なにかあったら、すぐメールすればいい。小さな機械の中に、私と、知人友人達との繋がりが、文字列の形式で集約されている。
ずっと、そう思っていた。
しかし、携帯電話は、いつからかずっと私に嘘をついていた。いくら送信しても、メールはすぐに戻ってきてしまう。その時、初めて気付いたのだ。携帯電話が繋げていたのは、私とあの人ではなかった。
繋がっていたのは、無邪気な思い込みのまま生活を続けていた無知な私と、もう存在しなくなった抜け殻のようなあの人のメールアドレスという、無意味な文字列のデータだったのである。
(講評)
携帯電話やPCメールアドレスのデータは、どんどん増えていきます。メールアドレスを変更した時に、自分にはその連絡がなされていなかった……。メルアドを媒介として関係を築き、それが突然に断ち切られてしまうという現代人特有の「関係の脆弱さ」がよく表されています。
化かし合い
修正液。文字を書き損じた時に、上から塗り重ねて間違いを正すもの。しかし、修正液にはもう一つ、秘められた役割がある。
それは、紙の嘘を、暴くこと。
紙は白。文字は黒。ほとんどの場合、人はそう思って、紙に文字を書き続けている。しかし、それは大いなる欺瞞なのである。
紙は決して、白くない。その中には微妙な濃淡があるし、決して白とは言えないような紙も多く存在する。それを白と思い込むのは、文字の黒とのコントラストがあるからである。
だから修正液は、大半の紙よりも純白であることを要求される。修正液自身の欺瞞??ただ覆い隠しただけで、決して「修正」できていないことを感じさせないくらいの純白を。
今日もどこかで、嘘の吐き合いが繰り広げられている。紙と文字と修正液。重ね合い、だまし合いの記録が今日も、残されていく。
(講評)
紙はけっして真っ白ではないのに、製品としての修正液は純白である。この矛盾を「紙の嘘」とし、また、修正液はただ覆い隠すだけのものであり、決して元の誤りを正せてはいないことを「修正液の嘘」とすることにより、嘘が重なり合っていく様子がよく観察されています。
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